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小胞体とミトコンドリアの接触部の崩壊が神経難病ALS発症の鍵となる 研究活動 | 研究/産学官連携

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Academic year: 2018

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【ポイント】

SIGMAR1遺伝子に若年性ALSの原因となる新しい変異を同定

患者のSIGMAR1遺伝子は本来の機能を全く発揮せず、機能の喪失(loss-of-function によって若年性ALSを発症する

SIGMAR1遺伝子、SOD1遺伝子の、どちらの遺伝子の変異によるALSにおいても、 MAMの崩壊が共通した病態メカニズムである

MAMの崩壊による選択的な運動神経細胞への傷害には、運動神経細胞に豊富に存在 するイノシトール三リン酸受容体3型(IP3R3)の機能異常が関与している

小胞体とミトコンドリアの接触部の崩壊が

神経難病 ALS 発症の鍵となる

名古屋大学環境医学研究所(所長:山中宏二)の渡邊 征爾(わたなべせいじ)助教、 山中 宏二(やまなかこうじ)教授らの国際共同研究グループは、神経細胞の維持に重要 な役割を担う小胞体とミトコンドリアの接触部(MAM)が崩壊することが神経難病ALS

(筋萎縮性側索硬化症)の発症に重要であることを発見しました。

ALS は、大脳や脊髄にある運動神経細胞に原因不明の細胞死がおこり、全身の筋肉の 麻痺や萎縮を生じる神経難病で、一部は遺伝性に発症します。研究グループは、ALS の 発症機序を解明するため、若年性ALSの原因遺伝子SIGMAR1に着目して研究を行いま した。その結果、患者の SIGMAR1 遺伝子は、その機能を失うことにより、神経細胞の MAMが壊れることを見出しました。また、別のALS原因遺伝子であるSOD1遺伝子異 常をもつALSモデルマウスでも、疾患の進行に伴ってMAMが崩壊することを見出しま した。さらに、SIGMAR1遺伝子を除去したALS モデルマウスでは、発症時期が著しく 早くなることが判明しました。その機序として、MAMに存在するイノシトール三リン酸 受容体3型(IP3R3)がMAMの崩壊により、機能異常を来たすことを見出しました。IP3R3 は、運動神経細胞に豊富に存在していたことから、この機能異常が、ALS でみられる運 動神経細胞死の一因であることが示唆されました。

本研究成果は、MAM の崩壊が運動神経細胞を傷害して ALS を発症させる重要なメカ ニズムであることを明らかにしたものです。異なる2つのALS モデルで共通してMAM の崩壊が観察されたことから、MAMの崩壊は、ALSの大部分を占める孤発性ALSの病 態にも深く関与していることが考えられます。今後、MAMの崩壊を防止し、神経細胞を 保護する治療法の開発につながることが期待されます。

本研究成果は、平成 28117 日(日本時間)に欧州医学誌『EMBO molecular medicine』オンライン版に掲載されました。

本研究は、文部科学省科学研究費、日本医療開発機構(AMED)、上原記念生命科学財団、内藤 記念科学振興財団、日本ALS協会、堀科学芸術振興財団より研究助成を受けて行われ、名古屋 大学医学系研究科、ジョンズ・ホプキンス大学、テキサス大学ヒューストン校との国際共同研究 による成果です。

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【概要】

名古屋大学環境医学研究所の渡邊征爾助教、山中宏二教授、医学系研究科の玉田宏美研 究員、木山博資教授らの国際共同研究グループは、神経細胞の維持に重要な役割を担う小 胞体とミトコンドリアの接触部(MAM)が崩壊することが神経難病ALS(筋萎縮性側索 硬化症)の発症に重要であることを発見しました。本研究成果は、平成 28117

(日本時間)に欧州医学誌『EMBO molecular medicineオンライン版に掲載されます。 ALS は、大脳や脊髄にある運動神経細胞に原因不明の細胞死がおこり、全身の筋肉の 麻痺や萎縮を生じる神経難病で、一部は遺伝性に発症します。研究グループはALSの発 症機序を解明するため、若年性ALSの原因遺伝子SIGMAR1に着目して研究を行いまし た。その結果、患者のSIGMAR1遺伝子は、その機能を失うことにより、神経細胞のMAM が壊れることを見出しました。また、別のALS原因遺伝子であるSOD1遺伝子異常をも つ ALS モデルマウスでも、疾患の進行に伴って MAM が崩壊することを見出しました。 さらに、SIGMAR1遺伝子を除去したALSモデルマウスでは、発症時期が著しく早くな ることが判明しました。その機序として、MAMに存在するイノシトール三リン酸受容体 3型(IP3R3)がMAMの崩壊により、機能異常を来たすことを見出しました。IP3R3は 運動神経細胞に豊富に存在していたことから、この機能異常がALSでみられる運動神経 細胞死の一因であることが示唆されました。

本研究成果は、MAM の崩壊が運動神経細胞を傷害してALS を発症させる重要なメカ ニズムであることを明らかにしたものです。異なる2つのALS モデルで共通してMAM の崩壊が観察されたことから、MAMの崩壊はALSの大部分を占める孤発性ALSの病態 にも深く関与していることが考えられます。今後、MAMの崩壊を防止し、神経細胞を保 護する治療法の開発につながることが期待されます。

【背景】

ALS は、大脳と脊髄の運動神経細胞が徐々に傷害されて死に至る原因不明の神経難病 であり、本邦では、約9,000人のALS患者さんが闘病しています。思考や認知に関わる 能力は保たれたまま、全身の筋肉の麻痺や萎縮が進行し、多くの患者さんは数年以内には 人工呼吸器なしには生存できなくなるため、発症原因の解明と治療法の開発が強く期待さ れている重篤な疾患です。

ALSの約1割を占める遺伝性ALSでは、原因遺伝子を手がかりにモデル動物を作製す るなどの遺伝子工学的手法を利用して研究することが可能なため、遺伝性ALSの原因遺 伝子の機能を解析することを通じて、ALS の病態解明に向けた研究が行われています。 遺伝学の発展に伴い、近年、多くの遺伝性 ALS の原因遺伝子が発見され、現在では 20 種類以上にのぼります。しかしながら、これら遺伝性ALSの疾患メカニズムのなかで広 くALSで共通する機序は何か、という点は依然として不明なままでした。

【研究の内容】

ALS16は、2012年にAl-saifらによって初めて報告されたSIGMAR1遺伝子上の劣性 変異を原因とする若年性遺伝性ALSです。ALS16の患者さんは、生後数年のうちから運 動機能の異常を示しますが、進行は緩やかです。本研究では、ジョンズ・ホプキンス大学

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およびテキサス大学との共同研究により SIGMAR1 遺伝子上、283 番目のコドンでシト シンが重複し、遺伝子の読み枠がずれて不完全で異常なタンパク質が作られる(フレーム シフト変異; p.L95fs/c.283dupC)という、ALS16の原因となる新たな変異を同定しまし た(図 1)。これら ALS 患者由来の変異を持つ SIGMAR1 遺伝子を培養細胞に導入した ところ、作られるタンパク質は極めて不安定で本来の機能を発揮できないことが判りまし た(図1B)。このタンパク質は、正常では、小胞体とミトコンドリアの接触部分(小胞体・ ミトコンドリア膜間領域; mitochondria-associated membrane; MAM)にあります。そ こで、SIGMAR1遺伝子を欠損したマウス(ノックアウトマウス)の運動神経細胞におけ る MAM の構造を電子顕微鏡や免疫蛍光染色法で観察したところ、SIGMAR1 遺伝子が 欠損するとMAMの構造が壊れることが明らかになりました(図1C, 2B)。

では、これらの結果は、SIGMAR1遺伝子に異常があるときに特有のものなのでしょう か?この問題に答えるため、私達はALSモデルとして広く使われているALS1の原因遺 伝子 SOD1 に着目しました。ALS 患者由来の変異を持つ SOD1 遺伝子を導入した ALS モデルマウスや培養細胞では、MAM に変異 SOD1 タンパク質が蓄積し、その蓄積に伴 ってMAMの壊れていく様子が観察されました(図2A, B)。

興味深いことに、SIGMAR1遺伝子を除去したALS モデルマウスを作製したところ、 発症時期が約 20%以上、顕著に早くなることが判りました(図 3A)。このメカニズムを 探索したところ、MAMの崩壊に伴ってイノシトール三リン酸受容体3型(IP3R3)の機 能異常が起こることが明らかになりました。本来、IP3R3MAM に存在し、小胞体か らミトコンドリアへのカルシウムイオンの運搬を担う分子です。しかし、MAMが崩壊す ることで、IP3R3 は小胞体内のカルシウムイオンを細胞質へ無秩序に放出していました。 また、同時にミトコンドリアへのカルシウムイオンの供給が不足し、細胞のエネルギー産 生が減少していました。IP3R3は中枢神経系では運動神経細胞に豊富に存在しており、運 動神経細胞がMAMの崩壊によるダメージを受けやすい理由であると考えられます(図3)。

以上の結果から、MAMの崩壊はSIGMAR1遺伝子、SOD1 遺伝子の変異によるALS に共通した病態メカニズムであることが明らかとなりました。

【成果の意義】

これまで、複数のグループによりALS16の疾患メカニズムの解析が行われてきました が、MAMの構造的な破綻を明らかにし、さらにMAMの破綻がSOD1遺伝子とSIGMAR1 遺伝子という異なる2つの遺伝性ALSの間にある共通の疾患メカニズムであることを示 した研究は本研究が初めてです。海外のグループによって、孤発性ALSでもSIGMAR1 遺伝子の産物に異常が報告されていることから、MAM の崩壊は孤発性 ALS も含めた ALS で共通の疾患メカニズムであると考えられます。今後、MAM の機能維持に焦点を あてることで、ALSに広く共通した治療法の開発が可能になると期待されます。

【用語説明】

小胞体・ミトコンドリア膜間領域(MAM

細胞内小器官であり、タンパク質の合成や品質管理を行う小胞体とエネルギー産生に関わ るミトコンドリアの膜が接触する部分であり、細胞の機能維持に重要なタンパク質が多数

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集合している。最近の研究で、ミトコンドリアでのエネルギー産生や脂質合成、オートフ ァジー(自食作用)の膜形成など、多彩な機能をもつことが明らかにされつつある。

SOD1遺伝子(スーパーオキシドジスムターゼ1遺伝子)

細胞内で発生する有害な活性酸素であるスーパーオキシドを解毒する反応系を触媒する 酵素をコードする遺伝子。遺伝型のALSでは、この遺伝子に変異があり、SOD1タンパ ク質の性状が変化して凝集しやすくなった結果,神経細胞に異常に蓄積し、神経傷害性を 発揮することが知られている。

SIGMAR1遺伝子(シグマ1受容体遺伝子)

MAM に存在するタンパク質で IP3R3 などの MAMにある他のタンパク質と結合して、 安定化すると考えられている(シャペロン様タンパク質と呼ばれる)。活性化すると神経 突起の伸長作用や認知機能の改善などが見られることから、うつ病や認知症においても治 療標的分子として重要と考えられている。ALS16 だけでなく、遠位遺伝性運動ニューロ パチー(体幹から遠い部分の筋肉が萎縮する遺伝性疾患)の原因遺伝子でもある。

イノシトール三リン酸受容体3型(IP3R3

イノシトール三リン酸が結合することで、カルシウムイオンを小胞体から放出するタンパ ク質の一種。ミトコンドリアへ素早くカルシウムイオンを受け渡すことによって、エネル ギー産生を円滑に行えるようにする働きがあると考えられている。

ALSモデルマウス

遺伝性ALSの原因遺伝子SOD1ALS患者由来の変異を導入した変異ヒトSOD1 遺伝 子をマウスに導入したモデルマウスであり、ALS の特徴である運動神経細胞死、筋麻痺 を再現し、広く研究に使用されている。

【論文名】

“Mitochondria-associated membrane collapse is a common pathomechanism in SIGMAR1- and SOD1-linked ALS”

(小胞体ミトコンドリア膜間領域の崩壊がSIGMAR1遺伝子およびSOD1遺伝子の変異 に伴う筋萎縮性側索硬化症に共通した病態機序である)

Seiji Watanabe, Hristelina Ilieva, Hiromi Tamada, Hanae Nomura, Okiru Komine, Fumito Endo, Shijie Jin, Pedro Mancias, Hiroshi Kiyama and Koji Yamanaka

(渡邊征爾,Hristelina Ilieva,玉田宏美,野村花江,小峯起,遠藤史人,金世杰,Pedro Mancias,木山博資,山中宏二)

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DOI10.15252/emmm.201606403

http://embomolmed.embopress.org/cgi/doi/10.15252/emmm.201606403

【参考図】

(図1)本研究では、新たにSIGMAR1遺伝子上でALSの原因となる変異を同定しまし た(L95fs)(A 赤丸). ALS16患者由来のSIGMAR1遺伝子産物(シグマ1受容体; Sig1R) は、野生型と比較して細胞内で極めて不安定でした(B. そこで、SIGMAR1遺伝子を 人為的に欠損させたマウス(SIGMAR1-ノックアウトマウス)の脊髄を観察したところ、 MAM に局在するはずの IP3R3 が細胞全体に広がって分布するという異常が見られまし た.

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(図2IP3R3の異常はSIGMAR1-ノックアウトマウスだけでなく、ALSモデルマウス であるSOD1G93Aマウスでも観察されました(A. ALSモデルマウスでは、Sig1Rの凝 集化も同時に見られ、Sig1Rの機能も同時に喪失していることが示唆されます. また、直 接的に MAM の崩壊を観察するために電子顕微鏡像を撮像したところ、野生型と比較し て、MAMの大きさが顕著に減少していることを見出しました(B.

(図 3MAMの崩壊に伴う運動神経細胞への傷害メカニズムの模式図. 本研究の結果か ら、ALS では MAM が崩壊して IP3R3 の機能異常が生じることで 1)細胞質への過剰 なカルシウムイオン(Ca2+)流入、2)ミトコンドリアへのCa2+供給不足によるエネルギ ー産生量の低下 が引き起こされて、運動神経細胞が傷害されると考えられます。

参照

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